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保志 文子様
お元気でしょうか。林間学校の夜、文子さんにも陽にも大変迷惑をかけてしまったと思います。本当に、ごめんなさい。
会いたかったです。僕は、あなたにとても会いたかった。迷惑をかけたというのに、そう強く思ってしまうことを許してください。
林間学校は、楽しかったでしょうか。僕は、あんまりうまく陽と記憶を共有できなくて。文子さんと会うはずだった夜のことが何にも分かりません。
文子さんは、キャンプファイヤーを楽しみましたか? カレーは美味しかったですか? ただ、文子さんを傷つけるようなことが何もなく、林間学校が終わったなら、僕はもうそれだけでいいのだと思う。
伝えたいことがたくさんあって、知りたいこともたくさんあって、だけど、欲張りになればなるほど、削られていくものもあるようで、僕は、ただ、もう一度、文子さんと会いたい、文子さんに手紙を書きたいと思っていることしかできなくて。こんなことをあなたに伝えてしまうことも、今はわざとボールペンを選んで書いてしまっていることも、すべてだめだと思っています。ごめん。
いつの間にか、夏が来ましたね。僕は僕である本当に少ない時間に、昔に僕が偶然出会ったシェイクスピアのソネットの第十八番の詩を思い出したりしています。
彼は、“人が呼吸しているかぎり、目が見えるかぎり、この詩は生きてあなたに永遠の命を与える”と言う。僕は、勇気をもらっています。
文子さん、もう、誤魔化すことができそうにはなくて、あなたにはあなたを困らせるような嘘はなるべきつきたくなくて、本当のことを言うと、僕は最近、陽とうまく入れ替われなくなってきています。
文子さんを心配させたいわけではないんだ。ごめん。今日も、文子さんが、健やかに生きてくれることを願います。
森田 影
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