きみは溶けて、ここにいて【完】





―――「“陽は、絶対に幸せになれないからね”」



 自分が言われたわけではない。


それが、どれほどの鋭さをもつ言葉なのか、想像するだけではきっと足りない。だけど、呪いのような言葉だ、と思った。



「母親に最後に言われた言葉が、ずっと離れない。マザコンかもしれないけど、本当に、好きだったんだ。厳しくて、だけど、優しい人で。だから、言わせてしまった現実も、なにもかもくそだと思った。幸せになれない。なんだ、俺は、もう幸せになれないのかって、最初は、自暴自棄になってた。どうあがいても自分は不幸なんだって、じゃあ、とことん不幸になればいいやって。だから、土砂降りの日に外へ行ったり、思い出の家族写真を一枚一枚こっそり部屋で破ったりしてた。それらをするのは、きまって、影だったけど。でも、幸せになれないなんてそんなことあるかよって、あるとき急に俺、思い直したんだ。育ててくれてる父親に、申し訳ないとも思った。家族がバラバラになったからって、他人に、自分の不幸ドラマを勝手に想像されるのも嫌だった。それからは、ずっと、笑ってる。誰よりも、幸せにみえるように生きてやるって思ってる。恵まれた人間関係を築いて、何にも不幸なんてないような顔して」

「……っ、」

「保志さん、俺ね、無理をしてでも、不幸じゃないって証明し続けたいんだと思う」




 森田君が、笑う。


 背筋がいい人。

だけどそれが、彼の全てではないのだと知る。


知ったらもう、知る前の自分には戻れないのだ。

同情はできない。
全てを理解することはできない。