きみは溶けて、ここにいて【完】






「親権は、父親がもった。それでさ、二人で暮らすようになってしばらくたったときに、自分ではない誰かが、自分の中に潜んでいるんじゃないかって、それくらいの気配だったんだけど、眠る前とか、起きたときに感じるようになって。その気配が、次第に強くなっていったんだ。あ、別の人間が俺の中にいるのかもしれない、って悟ってからは、なぜか、もう一人の自分と、――影と、互いに、意思疎通のようなものができるようになって、入れ替わる頻度も多くなった」

「そう、なんだ、ね」

「前も、保志さんに言ったかもしれないけど、影はさ、可哀想なんだ。完璧な弱さだ。ただ、俺の負のエネルギーから生まれたものなんだと思う。そのことを、影も認めている。自分を弱さだと思っている。苦しみとか諦めが、影の親なんだろうな。でもさ、最近は、もうすっかりと慣れてきたんだ。保志さん、傷って、癒えるみたいだ。少しずつ、過去になっていく。忘れたくて、でも絶対に、忘れたくないことが、自分の意思とは関係のないところで、離れていく。俺ね、父親と二人で暮らすことに、慣れてきたんだ。母親がいないことに、慣れてきた。父親と二人でも、楽しいし、ふたり家族なんだって、今は、まあ、平気で認めていられるようになった」



 私は、何も知らなかった。

当たり前だ。想像すらしなかった。


だって、森田君はいつも笑っていた。いつも、みんなに囲まれて、何も不自由なんてなさそうにして。幸福を抱きしめたように笑っている。

羨ましいとすら思っていた。



うん、という相槌すら喉にひっかかって、木々の間で星の光が少しだけぼやけて見えた。



「傷が、癒えてきている。確実に、前に、進んでいる。影の存在が薄くなっているのは、それが原因だと思う」



 それならば、影君の存在を望むことは、森田君に苦しみを強いることになってしまうのだろうか。