きみは溶けて、ここにいて【完】






 相変わらず、蛍は点滅していて、
私たちは、その神秘の中に腰かけたままでいる。



「影がいなくなってしまったら、俺はどうなるか分からない」



 影君がいなくなる。

そんな恐ろしいこと、言わないでほしかった。


想像しただけで、苦しくて、手紙の丁寧な筆跡や、会ったときにくれた笑顔や言葉が蘇ってきて、胸が痛くなる。

だけど、それよりも森田君が苦しそうだったから、私は意味のない頷きをひとつ彼にあげることしかできなかった。




「影がいなくなったとして、俺の身体の中の、影がいた場所に、何が生まれるのか分からない。暗闇に、なるかもしれない。それが、怖いんだ。今は、ふたりで身体を共有しているけど、影がいなくなって、そこに穴ができて、いつか、俺もその空洞に呑み込まれてしまったら、どうなるんだろうとも思う。今日だって、入れ替わるはずだった。影はそれを望んでいたし、俺も、それを望んでいた。なのに、今、俺は俺のままだ。最近、本当に、変われないんだ。うまく、いかない。それにさ、なによりも、保志さん」

「う、ん」

「大切、だから、すごく」

「たい、せつ?」

「俺は、影のことを、本当に大切な存在だと感じてる。だから、いなくなってほしくない」

「それは、……影君も、きっと、同じだと、思う」

「分かってるよ。お互いにそう感じている。でも、必要だと思うことと、本当に必要かどうかは、違うのかもしれない」

「……どういう、ことなの、かな」

「どういうことだろうね」



 森田君が自嘲気味に笑う。


悲しい表情なのに、月明りに照らされると美しかった。美しさは、どうして、優しいだけではないのだろう、と少しずれたことを私は思っていた。