保志文子は断らない。
脳裏に影君の姿が浮かぶ。
森田君ではなく、影君。
―――断り、たいときだって、あるって、知っているのに知らないふりをするのは、ずるいことだよ。
そう思った。
それでも、首は縦に動いていた。「いいよ、……料理、好きだから」とその後に続いて、嘘つきな言葉が外に出る。
それから、浜本さんと吉岡さんは、すぐに人が集まっているところへと行ってしまった。
一人になってから、遅れて胸の痛みがやってきた。
影君に会いたい、とますます思っていた。
影君に会ってから、ないものとしていたこころの一部が、また感覚を取り戻しつつある。
自分の大切の仕方を間違えていることへの痛み。
気づきたくなった。
それでも、影君と会ったことを後悔する気持ちは一切ない。



