「い、いや、なにもそこまで……私も言いすぎました。すみません」


 一気にトーンダウンした私に対して、鮎川さんは言葉を続ける。


「でも、僕の中で確信に変わりました」

「えっ?」

「若菜さん。やはりあなたは、僕にとって理想の女性です。僕はあなたと是非とも結婚したい」


 姿勢を正して、真剣なまなざしを向けてくる相手に、若菜はあっけにとられた様子で固まっている。



「な、なんでそうなるのよ……」


 数秒間の沈黙の後、か細い声で口を開いた私に向け、鮎川さんは理路整然と話し始めた。


「僕はこれまで、誰かに本気で注意されたことがありませんでした。両親はとても優しい人たちで、僕の得意なことは褒めて伸ばしてくれてましたし、そのためのサポートも惜しみませんでした。しかし、苦手なことを克服させよう、という考えはなかったようで、その成れの果てがコレということです」

「ちょっと待ってよ。あなたのその見た目は、全部ご両親のせいだって言いたいの?」

「いえいえ、そういうわけではありません。言葉足らずでしたね。僕は両親に心から感謝していますし、自分の欠点を彼らのせいにしたいわけでもありません。僕が本気で外見をどうにかしなければと思っていれば、自分で勉強するなり、詳しい人に教えを乞うなりと、いくらでもやりようはあったはずですからね。ただ、僕はそれをしなかった。先ほど若菜さんに注意されるまで、自分の外見が相手を不快にさせてしまうということにすら気づけなかったのは、完全に僕自身の問題ですよ。ただ――」

「ただ?」


 私はそう聞き返すと、鮎川さんは言葉をつなげた。


「両親にさえ言われなかったことを、本気で注意してくれたあなたに、心の底から感動してしまったのです」

「そ、そんな大層なこと言ってないけど……というかだいぶ失礼なこと言っちゃったし」

「それでも、あそこまで感情を隠さずにぶつかって来てくれたのはあなたが初めてだ。ある頃から、僕に近づいてくる人は、何らかの打算が見えてしまうもので……」


 鮎川さんはそういうと、初めて悲しげな表情を見せた。