「あ、そういえば鮎川さんって、どこに住んでるの?」
「ええと、季節に合わせて移動しながら暮らしています」
甘味のわらび餅を一口食べると鮎川さんは真面目に答えた。
「別荘ってやつ? 軽井沢とか沖縄とか? セレブは違うわね~……」
「日本だと、軽井沢と沖縄を含めて七軒ですね。いまの時期は紅葉がきれいなので鎌倉にいますが、そろそろ寒くなるので地中海に移ろうかと思っています」
「えっ! 地中海……も、もしかして、鮎川さんって世界中に別荘が……?」
私は恐る恐る彼に聞いた。
「世界中というほどではないですが、二十か国ほどに」
「え……?」
「若菜さんが望むのなら、別荘を贈らせていただきますよ」
そう、鮎川さんは平然とした表情をして言った。
「良かったな、若菜」
父がそう言うが……スケールが大きすぎて、私は言葉が出なかった。
fin.



