地味な不動産王とお見合いしたら、とんでもないイケメンで溺愛されています。




「……美織若菜さん。僕の愚かさを、浅はかさを、気づかせてくれて本当にありがとう。人を好きなるという怖さを、楽しさを、教えてくれてありがとう。僕はまだまだ、未熟な人間です。だけど、あなたと一緒なら、毎日を楽しみながら、少しずつ成長していけると思っています。だから、あなたと共に、人生を歩んでいきたい。どうか、よろしくお願いします」


 穏やかな口調とは裏腹に、体の横で強張る両手は、わずかに震えている。


「……ひとつ聞かせて、鮎川さん」

「……はい、なんでしょう」

「あなたにとって、『人の気持ちを考える』ってなんですか?」

「……僕にとっては、『最大限努力すること』です。どんなに考えても、僕は若菜さんじゃないから、本当の気持ちを知ることはできない。だけどそこであきらめてしまっては、以前の僕と何も変わらないんです。だから、精いっぱい想像してみました。若菜さんはどんな服装が好きかな、とか、嫌いな髪型はあるかな、とかね。そのうえで、自分にできる最大限の努力をしてみる。そうしたら、もしも見当違いだったとしても、努力をしたこと自体に悔いは残りませんから」


 しばらく考えた後、若菜が口を開いた。



「はぁ~。全然ダメ。見当違いもはなはだしいわ。鮎川さんさっきから、やっぱり自分のことしか考えてないじゃない。いくら想像してどんなに努力したって、見当違いならなんの意味もないの。そんなので悔いが残らないなんて、自己満足よ自己満足!」

「……で、ですよね」

「……今度からは想像するだけじゃなくて、分からないことは直接私に聞いて」


 私がそういえば「えっ」と言う言葉と同時くらいに俯いていた目を見上げた。