「どうも、美織さん、若菜さん。お久しぶりです」
座っていた彼は、そういって私たちに向かって頭を下げた。
体のラインにあったダークグレーのスーツを着こなしていて、やや光沢のある生地感は、控えめながらも良質なものだと感じさせる。もちろんシャツもしわひとつなくパリッとしていて、清潔感にあふれていた。
「……おお、和樹くん! 驚いた……見違えるようだよ!」
「まだ少し気恥ずかしいのですが……」
そう言ってポリポリとかいた頭は、サイドをやや刈り上げたツーブロックスタイルで、少し癖のある髪質をパーマ風に活かした、艶のある黒髪がきれいにセットされていた。
「若菜さん、またお会いできて嬉しいです」
そう言ってまっすぐに見つめる目には、あの分厚い眼鏡はかけられていなかった。
「コンタクトに……したんですか?」
「こら若菜、まずは挨拶だろう!」
父の焦りも意に介せず、私は真顔で鮎川さんの言葉を待っていた。
「はい、そうなんです。いろいろな人からアドバイスを受けて……変じゃないでしょうか?」
照れくさそうにはにかむ表情は、四十歳とは思えないほど若々しく、どこか少年性さえ感じさせた。
「変じゃないです。驚きましたが……とてもよくお似合いです」
「そうですか! よかった!」
鮎川さんは満面の笑みで、頬を赤らめた。その様子を見ていた私は、釈然としないといった様子で口を開いた。
「……あの、見た目は確かに変わりましたけど、でもそれって結局、お金で解決しただけですよね? 高級なスーツ屋さんとか美容室に行って、お店の人の言いなりになって、表面を取り繕っただけにしか見えないんですけど」
真顔でそう言ってのけた娘に、父は言葉を失っている。
ごめんね、パパ。だってそうじゃない……。



