(そういえば、パパがこの人には資産目当ての女しか近寄ってこないって言ってたっけ。まぁ、この見た目で大金持ちなら、仕方ない気もするけど……)


「だから若菜さん。僕は変わりたいんです。自分の欠点に向き合い、あなたに相応しい男になってみせます。外見に気を使わないことが、愛する女性を嫌な気持ちにさせてしまうなんて、そんなことにも気づけなかった愚かな自分と決別するためにも!」


 前髪からわずかに見える目を輝かせて、鮎川さんは力強く私の目を見つめ言った。


「ちょ、ちょっと待って! 会ったばかりで、しかもこんなに失礼なことばっかり言う小娘を愛してるだなんて、あなた正気!?」

「ええ、正気ですとも。美織さんから写真を見せていただいた瞬間に、私は若菜さんに一目ぼれしてしまった。それはお美しい外見だけでなく、その写真からあなたの人柄がにじみ出ているように感じたからです。実際にお会いしたら、僕の思っていた通り、いや、思ってた以上に素敵な方だというのが分かりました。言ったでしょう? 確信に変わったと。僕は、あなたに結婚を申し込みたい」


 鮎川さんの誠実でまっすぐな物言いから、誠意が伝わってくる。ただ、私にとってはすべてがあまりにも急すぎて、もはや理解が追い付かない状態だった。


「……若菜さん」


 あっけにとられて言葉を失っている私に、鮎川さんが穏やかに声をかける。


「は、はい」

「突然のことで驚かせてしまい、申し訳ありません。ですがどうか、一か月後にもう一度だけ会っていただけませんか? 僕はそれまでに、あなたに相応しい男になってみせます。その時に改めて、気持ちを伝えさせてください。お願いします。」


 彼は深々とお辞儀をした。その姿に私はしばらく黙りこんでいたが、やっと、ひとつ小さく息を吐いた。


「……分かりました。一か月後ですね」

「ありがとうございます! がんばります!」


 少年のように無邪気に笑う鮎川さんは、食事を済ませると成り行きを見守っていた父親に再会の日時を相談してから、個室を後にした。