左手にはめられていたってことはきっと、しっかりした彼女に似合うかっこいい彼氏がいるんだろう。
高校生のガキじゃ張り合えないくらい完璧で大人な彼氏が。


そう思うと、感じたことのない痛みが胸に走った。
行き場のない、初めての気持ちが虚しく彷徨う。


とにかく諦めなければいけない。それだけはわかる。
他人のものを奪うなんてしていいはずがない。


……でも、傘を開けば。濡れたタオルを見つめれば。
さっきの出来事、胸の高鳴りが嫌というほど思い出されて。


あの一瞬で落ちてしまうなんて、単純にも程がある。
ふっ……と鼻から自嘲気味の笑いが漏れた。


どうしたらいいのか。どうしたら楽になれるのか。未熟な俺が考えたところで答えが見つかることはない。
だけど考えずにはいられない。


そんな、永遠にゴールに辿り着かない迷路のような思考に没入した俺は。


―――その日初めて、大好きな番組を見ることなくベッドの中へと潜り込んだ。