彼女から向けられる視線は彷徨ったり時々逸らされたり……ということもなく初対面だというのに堂々としていて。


同級生の女子たちには見られない、大人の女性特有の凛とした強さみたいなものを感じる。


渡された傘は生地が丁寧に折り畳まれ、売られたまんまみたいな形。


家の傘立てに無造作に刺さっている乱れた俺の傘とは正反対だ。


だとすれば、性格もきっと俺とは正反対。
真面目で几帳面な人なんだろうな、とも思った。


「正直とてもありがたいです。でも、それじゃあなたが濡れてしまうんじゃないですか?」


その人の格好は仕事帰りってことが明らかにわかるスーツ姿。
社会人のそういうのって高いって聞いたことがある。
やすやすと雨に濡らしていいもんでもないだろ。


いや、ここで服装は関係ないか。


見ず知らずの男子高校生に自分の傘を差し出してくれるような心優しい女の人を濡れさせるわけにはいかない。