「……なんでそんなことを言うの?」
びっくりした。
ここまで私の中に入ってこられると思っていなかった。
それを自分が嫌だと感じない……拒絶しないなんて思わなかった。
「目が綺麗なままだから、昨日泣いてないんじゃないかと思いまして」
私に触れる手に下心を微塵も感じない。
男子高校生から感じるのは純粋な優しさと私を心配する気持ちだけ。
「大人は大人になると、泣けなくなるって聞きました。でも、泣きたい気持ちなのに泣けないって凄くつらいことだと思うんです」
私に感情移入しているのか、男子高校生は言葉を並べながら苦しそうに顔を歪ませて声を震わせた。
……そっか、さっきのこらえるような表情は私の苦しさを感じ取ったからだったんだね。
私が必死に消そうとしている痛みに、男子高校生は気づいてくれていたんだ。
「気持ちを殺そうとしないで。我慢しないで」
敬語をやめて心に直接的に働きかけてくる。
私が、大人が我慢しているものを容赦なく壊そうとしてくる。
両頬を大きな手で覆われ、強制的に目を合わせられるように上を向かされる。
そして……
「お姉さん、泣いて」
切実に懇願されたようにも見える、静かな命令が下された。



