聖女達の元を去ったカスペルは、込み上げる不快感をぶつけるように乱暴に足を進める。
 その場にいた司教や近衛騎士達が足早にカスペルの後ろを追いかけてきた。カスペルは急に立ち止まると、そのうちのひとりに視線を向けた。

「トーラス、チェキーナ大聖堂にはもっとましな司教はいないのか?」

 まし、というのはもっと上手く聖女をハンドリングできる司教はいないのかということだ。トーラスと呼ばれたカスペルの腹心──聖協会の幹部のひとりは無言で首を横に振る。

「既に、選りすぐりの者のみで構成しております」
「くそっ! どいつもこいつも、使えないな」

 カスペルは歩きながら、舌打ちをする。

「むしろ、聖女様のお好みに合う騎士でも付けたほうが機嫌はよくなるかと」
「なるほど。では、早急に手配しろ。選ばれた男に拒否権はない」
「後は──……」
「何だ?」
「聖女様は、ヴィラム殿下と親しくなることをお望みのようです」
「ヴィラムと?」

 その意図を察し、カスペルは乾いた笑いを漏らす。

(聖女の立場を利用し、未来の国母の座を狙うとは。聖女どころか、とんだ女狐だな)

 しかし今の状況を考えると、ヴィラムに聖女の相手をさせた方が得策だ。

「ならば、ヴィラムを聖女のところに行かせろ」
「かしこまりました」

 トーラスが了承の意を込めて頭を深々と下げる。

(とんだ外れ聖女だな)