「聖女の精神状態は結界の強さに影響する。それはお前達も知っているだろう」
「もちろんです」

 そう答えた若い司教の体が、不意に大きく揺れる。カスペルがその胸ぐらを乱暴に掴み、自分のほうに引き寄せたのだ。

「ならば、どうすればよいかもっと考えろ」

 落ち着いた、けれど怒りの籠もった低い声が響く。

 鼻先が付きそうなほどの距離で司教をにらみ据えていたカスペルは司教を掴んでいた胸ぐらを乱暴に押し返す。その勢いで、司教は体ごと後ろにひっくり返った。

「あらまあ、大丈夫?」

 それを見たルイーナがさも心配そうにその司教を労る。けれど、その瞳には勝ち誇ったような色が浮んでいた。
 ルイーナはカスペルの右腕へと腕を絡ませた。

「カスペル陛下。わたくし、新しいドレスがほしいのです。王宮の仕立屋に──」
「聖女殿。俺は忙しい」

 ルイーナの表情が不愉快げに歪む。

「だが聖女であるあなたの願いは聞き入れなければならない。後ほど、手配するように申し伝えよう」

 カスペルが続けた言葉にルイーナの顔は喜びに染まる。

「では、またな」
「はい」

 ルイーナは笑顔でカスペルを見送った。