そのとき、部屋の外がにわかに騒がしくなる。床にブーツの踵がぶつかる、複数の足音が聞こえてきた。

「一体、何事だ?」

 ドアを開けてそう尋ねてきた男を見て、ルイーナはしめたと思った。男はアリスベン王国の国王であるカスペルだった。

「カスペル陛下、聞いてくださいませ! この者達がわたくしのことを虐めるのです。新参者の聖女が気に入らないからと嫌がらせをしているのですわ」
「それは本当か?」
「本当です! 今朝だって朝日が上るのと同時にきちんと礼拝を行い、祈りを捧げたのに、この者達がもう一度やり直せなどと申すのです。嫌がらせ以外の何ものでもありませんわ」
「聖女。俺は今、この者達に真偽を聞いている」

 少しトゲのあるカスペルの言い方に、ルイーナはぐっと押し黙る。ルイーナの近くに控える司教達は国王の怒りに満ちた視線に、困り果てたように視線だけで見合わせた。

「実は、聖女様が就任以来、結界が日増しに弱くなってきています。各地から綻びが生じてしいると報告が入っています。先日はセローナ地区で──」

 司教のひとりがそこまで言ったとき、カスペルが片手を上げる。

「もうよい。つまり、二回やれと言ったのだな?」
「それは──」

 カスペルの問いかけに、司教は口ごもる。会話を横で聞いていたルイーナの口元がにんまりと孤を描いた。
 カスペルは不愉快げに眉根を寄せた。