その瞬間、病室の中に重苦しい空気が流れた。

 ブルノ大司教が昏睡状態なのに、何もすることができないなんて。
 私は自分の無力さに、ぐっと拳を握りしめた。

    ◇ ◇ ◇

 その日一日、私はブルノ大司教のことで頭がいっぱいだった。

 帰り道、イラリオさんはいつものように私を前に乗せて馬に跨がる。黙り込む私の頭をイラリオさんがそっと撫でた。

「エリー、ブルノ大司教はきっとよくなる。大丈夫だ」
「うん」

 それきり黙り込む私を見て、イラリオさんは私が喋ることもできないほど落ち込んでいると思ったようだ。けれど、私はずっと違うことを考えていた。

(神聖力を補うことができる薬……)

 今日、病室で聞いたザグリーンの言葉を、頭の中で繰り返す。
 これまでずっと薬師として生きてきたけれど、そんな薬、聞いたことがない。

(通常の回復薬では無理だ、とも言っていたわね)