つまり、ブルノ大司教が崩れるほど祈りを捧げる必要があるというのは、結界そのものが弱くなっていることを意味した。これはブルノ大司教や親しい人だけの問題ではなく、セローナ地区全体に関わる問題でもあった。

「くそっ! チェキーナ大聖堂の新しい聖女は何をやっているんだ」

 イラリオさんが忌ま忌ましげに呟く。
 聖女光臨の儀が終わった今、結界の維持は新しい聖女の役目だ。ブルノ大司教がここまで疲弊するほど綻びが生じているとすれば、新しい聖女の祈りによる結界の維持がきちんと機能していないことになる。

「だが、今はまずはブルノ大司教を助けるのが先だな。回復薬は使っていると言っていたな?」

 イラリオさんは気を取り直すように首を小さく振ると、主治医に尋ねる。

「もちろんです」と主治医は答えた。「先ほども申し上げた通り、回復の兆しが見られなかったので途方に暮れておりました。今さっき追加の回復薬も届いたのですが、これも効くかどうか……」

 追加の回復薬というのは先ほどスティムさんに渡した回復薬だろう。

「通常の回復薬では、回復は無理だ」
「無理?」

 リーンの言葉に、イラリオさんが険しい表情をする。
「先ほども言った通り、これは神聖力の過剰放出によるものだ。神聖力を補うことができる薬でないと、意味がない。その薬がないなら、本人の回復力を信じるしかない」