「ねえ、ロベルトさん。ジェイの掃除もブラッシングもイラリオさんがやっているの?」
「そうですよ。特にブラッシングは体を触れるので、信頼関係が強固でない人間からされると馬が嫌ることも多いのですよ」
「なるほど」

 もう一度ピカピカのジェイの区画を見て、なんだかおかしくなる。

 イラリオさんといえば、仕事はできるらしいのだがプライベートの生活力が皆無なのだ。放っておくと部屋の中をぐちゃくちゃにしてしまうので、私がさんざん注意してピカピカ空間を保っている。でも、馬の生活空間の清掃はできるらしい。

 それを話すと、ロベルトさんは「ははっ」と笑う。

「言われてみれば、確かにそうですね。きっと、自分の居住空間より馬の居住空間のほうが綺麗にできますよ」

 ロベルトさんは相変わらず馬のブラッシングを熱心にしていた。さっきまで砂埃のせいで少しくすんでいた茶色い毛並みは、今や全身艶々だ。

「すごい、艶々だよ!」

 その効果を目にして、私は思わず感嘆の声を漏らした。私がここに来たときには少しすんでいた毛並みがあら不思議。あっという間に艶々ぴかぴかなのだから。