「馬は騎士にとって、特別な存在なのですよ。一人ひとり相棒の馬が決まっていて、その世話は本人がやります」
「ふーん。イラリオさんも自分で世話をしているの?」
「もちろんです。イラリオの馬のことはよく知っているでしょう? あの子ですよ」

 ロベルトさんは後方の厩舎の奥、綺麗に清掃がされた一画を指さす。そこには確かに、イラリオさんがいつも乗っている大きな黒馬がいた。名前は「ジェイ」だ。

 私はジェイの元に近づき、その様子を眺める。艶々の毛並みが黒光りしており、しっかりと世話をされていることを窺わせた。ジェイの繋がれた一画にはごみひとつ落ちておらず、掃除も完璧だ。
 騎士は馬に乗って仕事をするので、馬が騎士にとって特別な存在というのもわかる。通常の勤務はもちろん、万が一戦いなどが発生しても一心同体で戦うのだから。

 ロベルトさんは馬の体を拭き終えると、今度はブラシのようなものを取り出した。三センチくらいの厚みのある木の板にびっしりと固い毛が生えており、髪の毛用のブラシに似ている。

「今度は何を?」
「ブラッシングです。毛並みを整えるのですよ」
「へえ」

 ロベルトさんは慣れた様子でブラシを馬に這わせる。慣れているのか、馬はじっと大人しくしていた。