「何? なんか用だった?」

 何かを言いたげなディックの態度に、私は首を傾げる。じっとその顔を見つめていると、ディックの顔がどんどん赤くなった。

「ディック、なんか赤いけど大丈夫?」
「うるさい! 赤くなんかない!」

 そう叫ぶと、ディックは一目散に走り去ってゆく。

(な、何事……?)

 何もしていないのに怒鳴られてしまった。

(まっ、いっか)

 気を取り直した私は、手に持っていた鞄を背負うとその足で聖騎士団の事務所へと向かう。大聖堂から聖騎士団の事務所まで、私の足でも歩いて五分ちょっとだ。

「相手が鈍いと大変にゃん」

 私の後ろを付いてくるイリスが呟く。

「なーに、イリス。何が鈍いの?」
「何でもないにゃん」
「?」

 イリスはそれっきり喋るのを止めてしまった。一体なんだったの?