犬の話を聞いたお母さんがミハルの前で腰に手を当てる。


少し怒っているときの仕草だ。


ミハルは「なに?」と首を傾げた。


「それで、ミハルはなんて思ったの?」


「え?」


「犬を撫でてきたんでしょう?」


「うん。動物に関わる仕事もいいなぁって思った。でも今は女料理人がいいかな」


「女料理人?」


「そう。だって私手際がいいんでしょう?」


自信満々にそう言うと、お母さんは呆れたため息を吐き出した。


ミハルはまばたきをしてお母さんを見つめる。


「あのねミハル。夢を持つことはいいことだけど、あれもこれもは叶わないのよ?」


なにか、似たようなことを学校で言われた気がする。


「でも、沢山夢を持っていればどれかひとつが叶うかもいれないじゃん」


「そうだけど、沢山ありすぎるとひとつのことを追いかけられないでしょう?」


お母さんの言葉にミハルは首をかしげる。


そうなのかな?


全部の夢に向けて毎日少しずつ頑張れば叶う気がするけれどな。


「とにかく、今はどれかひとつの夢に絞る努力をしなさい」


お母さんにそう言われ、ミハルは「はぁい」と、気のない返事をしたのだった。