そう気がついて胸の奥から黒い感情が湧き上がってくるのを感じた。


「遅れてるよね。リップくらいつけてないと」


「わかる! 私もそう思う」


トオコとセイコの会話は続く。


「気にしなくていいよ。みんながメークする必要なんてないんだから」


ついうつむいてしまったセイコにハルナが声をかける。


「大丈夫だよ。あんなの気にしてないから」


早口でそう言ったとき、またトオコの声が聞こえてきた。


「見てこれ、お父さんに買ってもらったんだよ」


その声に見たくもないのにどうしても視線が向いてしまった。


トオコが手に持っているのはブランドものの財布だ。


中学生が買えるようなものじゃない。


高校生にだって、手が届かないかもしれない。


トオコの家は誰もが認めるお金持ちなのだ。


「いいなぁトオコ! 羨ましい!」


「私と友達のカナには今度お古を持ってきてあげるね」


「いいの!? やったぁ!」


2人の会話にハルナが一瞬悔しそうな表情を浮かべた。


「トオコのところに行ってもいいんだよ?」


試すようにセイコが言うと、ハルナは左右に首を振った。


「ううん。別に羨ましくなんてないよ。お古だなんて嫌だなって思っただけ」


ハルナはそう言い、気を取り直すように別の話題を始めたのだった。