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朝から4時間目の家庭科の授業が楽しみで仕方なかった。


数学の授業をしていても全然先生の説明が耳に入ってこなくて、ぼーっとしてしまう。


「次の答えを、大野さん」


先生が自分の名字を呼んでいることにも気が付かなかった。


「ミハル、先生に当てられてるよ」


隣の席の子がミハルの肩をつつき、ようやく我に返った。


だけどそのときミハルは頭の中でケーキ屋『MIHARU』にいて、注文された誕生日ケーキをつくっていた。


チョコレートケーキに名前入りのプレートを乗せて、ちょうど完成したときだったのだ。


「おまたせしました!」


隣のクラスメートに突かれた瞬間、反射的に立ち上がってそう言っていた。


一瞬教室内は静まりかえり、それから大きな笑い声が湧き上がる。


ミハルは顔を真っ赤にしてゆるゆると椅子に座って顔を伏せた。


「大野さん、なんの夢を見ていたの?」


数学の先生も呆れ顔だ。


「すみません」


消え入りそうな声で謝って、教科書で顔を覆ったのだった。