寒い。
「雪か,最悪」
「えっなんで?」
雪なんて
「ひどいと電車止まるし,会社行く人は歩いてかなきゃなんねぇし。歩きずれぇし」
「ふっ。うん,滑るよね」
「じゃなくて,足跡つけたり黒くなってんの見ると,胸くそ悪くて人が一回通ったとこばっか見つけて通らなきゃなんねぇから」
「そ……ふふっ,ごめっ…そうなんだ」
「さっきからなんなの」
「いや,あんまり自分以外の事ばっかり気にしてるから」
しかもと彼女は続ける。
「雪,ほんとは大好きじゃん」
……そんなわけない。
「でも良いよね」
俺の話なんて聞いてない彼女は,素手で雪を掬い上げると,俺の前まで持ってきて
「ほらっ」
真上にふわっと放った。
小さな粒が2人の上から降ってくる。
「綺麗でしょ? それに……」
寄ってくる彼女になんだと視線を向けると
「手が冷たくなったと手を繋ぐ理由ができる」
ふふんと笑う彼女に,俺は理由なんか要らねぇよと笑った。