「もうあまり時間がない。一回松本を迎えに行くか」

 内田くんに言われて、職員室の花菜ちゃんを迎えにいく。

「花菜ちゃん、もう大丈夫だよ」

「ふえ?」

 明るいところでみる花菜ちゃん、いつもの勇ましい姿はどこにもなくて、本当にガタガタ震えて泣いていたんだ。ハンカチで顔を拭いてあげると、わたしの手を握りながら立ち上がる。

「かくれんぼは……?」

「あと1組。たぶん教室の近くにはいるだろう」

 なるべく足音を抑えながら、階段を上がっていく途中のことだった。

 最後の一撃と言わんばかり、恐らく近くに落雷したと思われる大きな音と同時に、これまで点いていたすべての電気が消えた。

「停電か」

「キャーッ!!!」

 花菜ちゃんが座り込んで甲高い悲鳴を叫ぶ。

 そのとたん、教室から一番近い男子トイレからあたふたと出てくる三人組。

「今のなんだよ!」

 わたしは花菜ちゃんを停電でも消えない非常ベルの赤い光のところに連れて行ったから……。

「出たぁ!!」

 そうだよね……。校内は真っ暗で、赤くぼんやりした明かりの下にうずくまるロングヘアの女の子。顔は薄暗さと髪で見ることができない……。

 そのとき、彼らの後ろ側から……。

「最後までトイレの中に頑張ってたのになぁ? あぁ残念だなぁ」

 内田くんが三人に素早くタッチして……、かくれんぼは全員見つかって、わたしたちのチームの勝ちが決まった……。



 しばらくして電気が戻って廊下が明るくなって、全員を照らしている。

 さっきの悲鳴にすでに捕まっていたクラスメイトたちも外に出てくる。

 何が起きたのかまだ飲み込めていない男子三人と、その後ろで勝利のVサインの内田くん。

 そして近くの非常ベルのところでぺたんと座り込んでいる花菜ちゃんと、その手を握っているわたし。

「なんだよ、あの声って松本だったんかよ。全然気づかなかった」

「松本にも苦手な物ってあったのか」

「なによ! いつも花菜ちゃんに追いかけられてるからって、こういう時に言うわけ?」

「うわ、女の子の弱み握ったって顔してサイテー」

 ここぞとばかりにはやし立てようとした男子を、女子みんなで睨みつける。

 ある意味、花菜ちゃんの泣き声よりもブリザードより冷た~い視線の方が怖いと思った男子の方が多かったんじゃないかな。

「確かに、あのすすり泣きを暗い学校の中で聞いてたら大人でも怖いかもな。松本、大丈夫か?」

 先生は職員室から携帯に連絡をもらっていたから、何が起きていたかは知っていたんだって。



 もう雷も夕立も終わっていて、雲の合間から月明かりも顔を出している。

「本当にごめんね……」

 一人ではさすがに帰せないと、お家まで送り届けるとき、何度も謝ってくる花菜ちゃん。

「だれも松本の泣き声をスピーカーから聞くなんて想像してないからな。我ながらいい作戦だったかも」

「もぉ! 月曜日からいつもどおりだからね!」

 そう、その話題を持ち上げたとしても、結局花菜ちゃんに成敗されちゃうんだから、やろうとしても無駄なこと。



 その時以来、校舎を使ったかくれんぼはみんな避けるようになったってあとで聞いたっけ。



「夜の校舎でかくれんぼをすると、スピーカーから泣き声や悲鳴が聞こえる」って噂が広まれば……ねぇ?