ほかのグループが教室から出て行って5分。わたしたち三人も出発になった。

「この雨なら、校舎の中って言っても、下駄箱とかじゃ無理だな」

 夕立の雨が強く叩きつけているから、渡り廊下とかでは濡れちゃうもんね。

 見つけなきゃならないターゲットは10のグループ。制限時間以内に見つけ出せるかで勝敗が決まる。

「まて……」

 内田くんが花菜ちゃんの手を引っ張って足を止めると、この先の階段を指差しながら耳元に何か話している。

「小口はここで見張りしてろ。この先は屋上への階段しかない。俺が追い立てるから、松本と二人で降りて逃げてくるのを捕まえるんだ」

 分かったと二人で頷いて、用意に入った。

「みーつけ!」

「わぁ! 内田だ!」

 階段の陰に隠れていた三人が上にかけていく。

 それこそ作戦どおりだよ。屋上のドアは開いていないから、その場で捕まるか引き返してくるしかない。

「わー!」

 そんな声がひびいて、ひとり。あとの二人が階段をおりてくる。

「はい二人目!」

「げ、松本!」

 花菜ちゃんが二人目を捕まえて、わたしに引き渡す。残りの一人は走って逃げたけど、そんなの花菜ちゃんの足にかなう子なんかいない。

 普段なら怒られるけれど今日は特別。廊下をドタバタ走る音がして、すぐに「くやしー!」と声がした。

「この鬼チーム、見つかったら逃げ切るの無理!」

 教室に残っている担任の先生に引き渡して、次に向かう。

 そのあとも、わたしが上履きを脱いで足音を消して脅かし役になって、花菜ちゃんと内田くんが出口を塞いだりと、順調に(?)捕まえていく。

 この、元の教室まで連れて行く時間で、隠れる子たちは場所を変えたりしているから、残り半分になるとなかなか手強くなる。

 そのとき、窓の外から急に光が入って、校内に大きな音が響き渡った。

「雷か……。本格的だな」

「花菜ちゃん??」

 窓の外を見ている内田くんとは逆に、今度は震えて座り込んでしまったのが花菜ちゃん。

「どうしたの?」

「雷……、昔から怖くて……」

 顔を見ると、涙まで流している。こんなのお芝居ではできない。本当に苦手なんだ。

 ちょうど雷雲が真上にいるようで、容赦ないほどの雷鳴と光が次々にやってきて、もう花菜ちゃんはかくれんぼどころじゃない。

「花菜ちゃん……」

「小口、作戦変更だ。松本、職員室まで頑張れ!」

 灯りのついている職員室に三人で入ってみると、当直で残っていた先生たちが何事かと振り返る。

「先生、放送マイク借ります。松本、このマイクを握ってろ」

 花菜ちゃんは言われるまま、放送用のマイクを握る。もちろん、まだ鼻をすすり上げているし、雷鳴がとどろく毎に小さな悲鳴を上げて震えている。

「小口、この隙だ。こんな声がスピーカーから流れてきたら、隠れている方もびっくりして飛び出してくる。そこを捕まえるぞ」

「えっ!?」

 ルールでは三人が固まっていなければならないとあったけれど、先生がいる場所では別だとみんなで決めていた。

 つまり、花菜ちゃんを職員室において、わたしと内田くんで再び校内に出た。

 校内の放送用のスピーカーから、小さく鼻をすする声、小さな泣き声、雷鳴の時には叫び声すらする。

「これ、効果抜群だろ? 俺たちはこれが松本だって分かってるけれど、ほかの連中は知らないからな」

「ちょっとー」

「まぁ見てろって……」

 内田くんが、廊下の照明のスイッチに手をかける。

 雷が鳴った瞬間、廊下の電気を切った。スピーカーからは花菜ちゃんの悲鳴が聞こえる。

「わーっ!」

「なんだよこれー!」

「捕まえたぁ」

 近くの教室から飛び出してきた三人組を苦労することもなくタッチ。

「小口!? 嘘だろー!?」

 息を殺して隠れている側からすれば、突然泣き声やら悲鳴が聞こえて、同時に廊下の電気まで消える演出を使ったやり方は効果てきめん。

 お荷物にならないようにと思っていたわたしでも、慌てて飛び出してきた組を三人まとめて捕まえたり。

 わたしたちが一人少ないってハンデも感じることもなく、残りは1グループだけになった。