「────奈子先輩」


短い春休みも終わり、高校二年生になって初めての登校中。


春の陽気に眠気を誘われて密かにあくびを一つしたとき、やや高めの声に後ろから呼ばれた。


私の名前は淵上(ふちがみ)奈子(なこ)


この辺に奈子さんがいなければ私のことを呼んでいるんだと思う。


でも……せん、ぱい?


二年生になったばかり、しかも、部活に入っていない私に後輩なんていないんだけど……。


そう思いつつも、どこか聞き覚えのある声に記憶を辿りながら振り返った。


すると、


「久しぶり!!」

波柴(はしば)蒼空(そら)くん……!?」

「せいかーい!さすが先輩、記憶力いーね!」


ニコッと人懐っこい笑顔を向け、私の元へ駆け寄ってくる中学時代の後輩くんがいた。


……私と同じ高校の制服を身に纏って。


蒼空くんの学力とうちの高校の学力は、釣り合っていなかったような気がする。


だけど、間近に来た制服は間違いなく私と同じ柄で……。


あれ、もしかして私はまだ夢の中にいるの……?