シャワーを浴びながら、玄関で何かが鳴っているのに気付いた。


ガガガ、ガガガ、と定期的な音が聞こえてくる。


「携帯だ」


玄関のタイルの上に落ちたままにしていたから、バイブ音が聞こえているのだ。


幸男はすぐに泡を流し、腰に一枚のタオルを巻いて出ると、携帯を取る。上司からの着信があった。


「はい」


すぐに電話に出る。


「山梨君、すぐに会社に戻ってくれないか」


いつもの上司の声がそう言った。


「はい? 緊急ですか?」


聞きながら幸男は眉を寄せる。今帰ったばかりだぞ。


「あぁ、緊急だ。お茶を汲んでくれないか」


上司はそう言うと、電話の向こうでさもおかしそうに笑い声を上げた。


「君はお茶くみ係だろう? だったらすぐに戻ってきて私にお茶をいれなさい」