幸男が次に目を覚ましたのは昼が過ぎてからだった。


冷房器具が扇風機だけ、というこの部屋で、昼間までよく寝たものだと自分自身で関心してしまう。


たっぷり寝汗をかいていたのでそれをシャワーで流してから、幸男はさっそくこの暑さをしのぐための道具を買うことにした。


枕元にある札束から数十枚抜き取り、残りを押入れの中へと押し込む。


金庫でもほしい所だが、この部屋に金庫なんて不似合いかもしれない。


札束を入れた後に、布団をかぶせ、扉を閉める。


まさか、こんなボロアパートの襖の向こうに一億円があるなんて誰も思わないだろう。


外へ出るとその蒸し暑さに顔をしかめる。


いつもなら離れた会社までだって歩くのだが、今は金がある。


わざわざ歩かなくたってそこら辺のタクシーを使えばいいだけだ。


しかし、こんな時に限ってタクシーは近くを通らない。通っても先客が乗っている。