悪魔と人間

☆☆☆

翌日朝早くに誰かが玄関のドアをノックした。


チャイムはついているが、とっくの前に電池が切れていて使えない。


「誰だよ」


Tシャツにパンツ一丁の姿のまま、幸男は玄関を開けた。


「おはよう」


目の前に立っていた男が、ドスのきいた声で一言言った。上司だ。


「どうも」


幸男は大あくびをひとつ。


全く相手にしていない、といった様子。



「お前、自分が何をしたのかわかってるのか」


「昨日のことですか? わかってますよ」


更に寝癖だらけの頭をボリボリと掻きむしる幸男。


その態度に我慢できなくなったのか、上司が手に持っていた紙袋を幸男へつきつけた。


「そんなにやめたいなら本当にやめちまえ! お前みたいなクズ、会社にいなくても十分にやっていけるんだ!」


そう怒鳴る上司を横目に、幸男は袋の中を見る。


「なんだ、デスクのものは捨てていいって言ったじゃないですか。わざわざ持ってきてくれるなんて、ありがた迷惑ですよ」


更に幸男の口から出た言葉に、上司は目を丸くし、口をポカンと開けたまま動かなくなってしまった。


「なにしてるんです? 用事が終ったら帰ってください」


幸男はそう言うと、上司の体をおしのけ、ドアを閉めた。


ドアの向こう側から上司の怒鳴り声が聞こえたが、それを無視し、再び布団の中にもぐりこむ。


枕元には一億円。


早くも自分の人生が狂い出したことを、幸男はまだ知らない……。