ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「わかんなかった?
ならもう一回」

「ひゃっ、ぅ……なぎ、さ」


「ふっ、むぎは唇も、耳も、どこ口づけでも甘いのな」


「やめ……」


「ほら。言えって」


「っ……」


グッと背中に回った腕、耳たぶにふれる唇。


知ってる。


少し強くなった口調は、べつに怒ってるとかじゃなくて、私のことを考えてくれてる証拠だって。


でもそれも私が理解してるってわかってて、わざと……。


「俺は好きで大切だから、むぎのこと、ぜんぶ知りてーの。おまえは、ちげーの?」


ふだん女の子たちに言うような言葉づかい。


私にはほとんど使わない分、そんな言い方をたまにされたら不覚にもドキドキしちゃうってこと、渚は絶対気づいてる。


私以上に、渚は私を理解してる。


ずるい。ほんとにずるい。


「教えてくれないなら俺も遠慮しねーよ」


「っ、なに、」


「キスしようか。とろけるくらい、激しいやつ」


待って。

そう言う暇もないままに、グッと顔の距離が近づいて。


「目、閉じろよ」


ふせられた長いまつげの奥が、私の唇をじっと見据えた気がして、思わずぎゅっと目を閉じた。



……。


あれ……?


けれど。


「なぎ、さ……?」


待っていた熱はいつになっても落ちてこない。

それどころか、渚が私から離れた気がして。


ん……?


「へえ?」


「なに……はっ!?」


やられた!

ニヤリと口角をあげて笑うその姿は、恐ろしいくらいにかっこいい……じゃなくて!


「騙したの!?」


「騙したなんて人聞きのわるい。
俺にふれてほしくて待ってたのはむぎだろ?」


「〜〜!!」