ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「今日さ、ずっとかわいい顔してたけど、昨日の夜のこと、思い出しちゃった?」


「っ……そ、それは……ていうか、結局、あのまま……私の部屋に、いたの……?」


「そうだよ。一晩中寝顔見てた。
すっげえかわいかった」


「っ、ぜったい変な顔、してた」


「どこが。たまに頭なでてたら擦り寄ってくるしで、ほんと萌え死にするとこだったけど?」


「擦り寄って、なんか、ない」


「してたよ」

「してない……っ、」


「してた」

「してないもん、」


「もん、だって。かわいいなー。
しかも急にツンツンモード。こんなとろとろにとけた顔してんのに」


「っ、ううっ……」


いじわる。


後頭部をなでてくれる手は優しいのに、離れたいと思っても、腰に回った手がグッと強く引き寄せるばかりで。


「体調悪くない?大丈夫?」

「うん……」


「よかった……やっっっとむぎのこと、抱きしめられた」


そして深く息を吐きながらゆっくり離れると、私の腰に手を回したまま、じっと見つめてくる。


「さっきの特訓の話だけど、」


「うん……」


「むぎの嫌がることはしたくないから。俺にふれられるようになるための練習、だから。嫌だとか無理なこととかあったら、ちゃんと教えてほしい」


「っ、そんな、の……っ」


「うん?」


渚にされていやなことなんて、あるわけないのに。


さっきからずっと、ふれようとする度にちゃんと一つ一つ聞いてくれて、大丈夫?って体調を気にかけてくれて。


大切にしてもらえてるって、愛されてるって実感できて、自分から抱きしめてほしいって求めるくらい、心臓がぎゅーっとなって。


渚のことがもっともっと好きになるの。


だから……。


「俺にふれられて、いやなとこなんか、ない?」


「っ……」


ほら、また。

私の考えてることなんて、お見通し。

自分のことなのに、渚のほうが私のことをずっとずっと分かっている気がする。


「ほんとさぁ、」


「えっ……?」


「なんっで、急にデレるかな」