ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「ささっ、着いてきて着いてきて!」


「い、行く?」


「はぁ……父さん」


「ふたりとも、絶対喜ぶものだから。
特に渚」


なんて、にこにこ笑うだけで詳しくは教えてくれない。


ちなみに今、うちの親はいない。


なぜか「荷物は任せて」とかなんとか言って珍しく遠慮してたから、結局久遠一家と私の4人で来たわけだけど……。


荷物は任せてって……なに?


「こっちね」


ついていくと、なぜか表ではなく、裏の……従業員専用?とはまた別の、少し庭園を進んだ先にあるドアのところで立ち止まった。


「これ、ここのカードね」


「は?」


「むぎちゃんにも渡しておくね」


「えっ?」



そう言って渚と私、それぞれに渡した汐さん。


ドアの横にある小さな機械に同じカードをかざすと、ピッと音がした。


「ささっ、入って入って!
あっ、エレベーター気をつけてね」


「はい……」


「……」


渚、無言になってる……。


そりゃそうだ。

はっきりなにを渡すだとか、なにも言われてない状態でホテルに連れてこられて、謎に裏のドアから入る。


不思議に思うのがふつうだよね……。


それからエレベーターに乗り込むと、汐さんは躊躇なくボタンを押す。


「あ、あの、汐さん……何階まで上るんですか?」


「最上階よ!」


「へぇ、最上階……最上階っ!?」


「ふふふ!」