なぜか、ジャケットにネクタイ、そして、いつもは下ろしている前髪をぐいっと上げて、ワックスで固めてる。


ううっ、こっち見ないで……。


じっと見られている気がして、なんとか目が合わないように必死。


こんな情けない顔、見られたくない。


渚がかっこよすぎて直視できないなんて。


好きを自覚したときよりも。

付き合い始めたときよりも。


見るたび、話すたび、渚がかっこよく見えて仕方なくて。


ずっと隣にいたのに。

ドキドキがとまらないよ……。


「渚くん、むぎと婚約したって報告にさっきうちに来てくれたの!」


「そうそう。
こんな素直じゃない娘だけどよろしくお願いしますって言ったら、渚くん、なんて言ったと思う?」


「俺はそんな彼女のすべてが大好きですから。
だって〜〜!!」


「はあっ!?」


ちょっちょっちょっと待って!?


私がぐーすか寝ている間に言っちゃったの!?

まだ朝の8時だよ!?


じゃあ、そんなビシッとした格好してるのも、お父さんたちに会うためってこと……?


はしゃぐふたりをよそ目にちらりと渚を見れば、


「っ……」


『大好き』


口パクでそう言って、砂糖を煮つめたみたいな甘い顔でほほえんで。


「っ、ぅ……」


渚の顔、見れない……。

顔、あっつい……。


「むぎ?
照れてるとこ悪いけど、さっさと準備しなさいね」


「べ、べつに照れてないから!
てか準備ってなんの……」


さっきからずっと置いてけぼり。


ていうか渚!


たぶんだけど、婚約したって親に言うときって、ふつうふたりでするもんじゃないの!?


「あの……」


「どうしたの渚くんっ!」


お母さん、テンションたっか……。

渚相手だといつもこう。

ほんっと昔から渚ラブなんだから。


「むぎと、ふたりに……」


そう言いかけた瞬間。


「むぎちゃーーん!!」