「んー……むぎー?」


「………」

「………」


シーン。

窓のカーテンが空いている以外は、なんらいつもと変わらない真っ暗な部屋だけれど。


物音一つしない部屋の隅にあるベッドは、変に膨らんでいるのがバレバレで。


「んー……?」


見られてる……。

真っ暗な部屋の中、寝ぼけたお父さんの視線が明らかベッドを向いている気がして、


っ〜、早く部屋に戻って……!!


ドッドッドと心臓が高鳴る。


「ふああ……気のせい、か……」


それからほんの数秒後。


バタン。

トントントン。


足音が遠ざかって、シーンとまた家の中が静まり返った瞬間。


「っ、もう!
ギリギリだったじゃん……!」


「俺はべつにバレてもよかったよ。元は許嫁なんだし、一緒に寝てたらすぐ婚約も認めてもらえそうじゃん」


「っ、そうかも、しれないけど……」


親に彼氏と寝てるとこを見られるなんて。


私の中の何かが!

確実に!減るんだよ!


「にしても……。
めちゃくちゃ大胆なこと、してくれるのな?」


「っ、だって、これは……っ!」


ニヤリと笑う渚の声に、ううっ……と呻くしかできない。


だって今の私の体勢は……。


「むぎに押し倒されるとか、これ現実?
あー、やっば。超すき。超しあわせ」


「ちょっと一回黙って!?」


お父さんが部屋を開ける直前。

慌てて渚を押し倒し、その上に私、その上にふとんをかけて。


「こんなに顔近いのに、必死に気にしてないフリするむぎ、めちゃくちゃかわいかった」


「っ……!」