ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「っ……!」


渚は泣き始めた私に目を見開いて固まっていたけれど、ハッとしたように慌てて手を放してくれた。


「むぎ」

「っ……」


けれど、体を起こしてくれようとしたその手も、涙を拭おうと伸ばされた手も、私にとってはすべてが症状の出る要因としかならないから。


「さわらないで……っ」

「む、ぎ……?」


また、拒絶してしまった。


「あっ、ちがう、ちがうの……っ」


ハッとして思わずそう言ったけれど、伸ばされた手は中途半端にとまったまま。


「……少しさわられるのもいやなくらい、俺のこと嫌いになった?」


「ちがうっ……」


「じゃあ、なんで拒絶すんの?
なんで泣いてんの?」


泣きたいのは渚のほうだ。

拒絶されて、ただ泣かれて。


伸ばされた手がだらんと下がって、ゆらゆらと揺れた瞳がそっと伏せられた。


もう、いや……。


もうこの体質が嫌で嫌で嫌で、憎くてしょうがなくて。


普段はめったに表情を崩さない渚が、こんなにつらそうにしてる。


こんな顔をさせているのは全部私の、この体質のせい。


きっと嫌われたに違いない。

いくら渚が相手とはいえ、


拒絶して泣くだけで、なにも話そうとしないやつなんて呆れられたに違いない。


ならいっそのこと、すべて打ち明けて嫌われたほうがいいに決まってる。


「なぎ、さ……っ」


「なに?」


「すき、だよ」


瞬間。

バッと勢いよく上げられた顔は、以前として、泣きそうなままだけれど。


「ほんとに?
俺のこと、きらいになったわけじゃない?」


「ほんと……すき、だよ」


「ほんとにほんと?」


「嫌いになんて、一生なれない……」


この気持ちだけは伝えたくて、息も耐え耐えにでも必死に言えば、渚はきゅうっと目を細めて、ホッとしたように、息を吐いた。


「じゃ、だったらなんで……」


「聞いて、くれる……?」


どんな反応をされるかは分からないけれど。


「うん。
この1ヶ月、俺のこと避けてた理由、教えて」


もう二度とこんな顔をさせたくないから。