「この間はむぎと付き合えてあまりに嬉しくて、急にして悪かったと思ってる。付き合ってるからってキスするのがすべてじゃないし、むぎが嫌なら俺もしたくない」


「っ……」


「でもそれも違うなら、なんで俺のこと、避けてんの」


「……」


「朝も帰りもいつもいないし、話しかけようとしても絶対いなくなる」


早く答えなきゃ。

早く理由を説明しなきゃ。


渚の誤解を解きたい。


そう思うのに。


自分の体質を聞いたとたん。

いくら渚でも、いくらずっとそばにいた幼なじみでも。

気持ち悪い、引いたって思われるんじゃないかって。


怖くて、言えなくて。



「……俺と付き合ったこと、後悔してる?」



まだ付き合って1ヶ月。

1ヶ月しか経ってないのに。


珍しく頬を緩ませて、幸せだと言って笑ってくれた渚にこんな顔させて、こんなこと言わせて。


もう、やだ……。

自分のこの悪夢みたいな体質に、ますます視界が歪む。


手しか握ってない。

唇にふれていたのだって、たかだか数秒程度。


なのに、なのに。


「……むぎ?」

「ごめっ……、」


握られていた手のくすぐったさと、渚への申し訳なさにとうとう我慢できなくなって。


「ごめん、ごめ、なぎさ、」


ポロポロと涙が落ちて、泣いてしまった。