ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「もう、ばか渚!
花火終わっちゃった!」


「ごめんって」


それからの帰り道。

足はガクガクだし、花火は終わってるし、せっかく整えた髪も乱れてて。


「でもむぎ、俺にもっとって抱きついてきたじゃん」

「そんなこと言ってない!」


けど正直頭が真っ白でそれどころじゃなかったから、自分が気づいてないだけで、本当は言ってたりして。


「ほんとにごめんな?
家帰ったらいっぱい甘やかしてやるから」

「たとえば?」


「一緒にお風呂入るとか」


「それは甘やかすに入りません」

「残念」


ムスッとした私の頭を、また優しい顔でなでる渚。

ふたりでいるとき、無表情なんてこと、ほんとないよね。


「渚はさ、私といるとき、無表情なことないよね」


「どうした、急に」


「ずっと思ってたんだよね。
ふだんあんなにクールなのに、よく切り替えられるなって」


「それはむぎもだろ」


「え?」


「ばかとか、ツンツンした姿、俺にしか言わないし、見せないじゃん」


「っ……それは、」


それだけ心、許してるからだし、なにより渚が好きだから。