ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「そ、それで?」


「うん、それで……」


今はHRまでまだ時間がある。

朝も早いし、教室は人がまばらだけど、一応周りを確認して、ちょいちょいっと手招き。


「え?なに?」

「ちょっと耳貸して」


「はいよ。
で、どうしたの?」


「………しちゃって」


「っ、え……なに?
もう一回言って?」


「っ~、だから!」



“ キスされて、突き飛ばしちゃって ”



「……」


「あ、あの、那咲?
なにか言って……」


この間、約30秒。



「キスされて突き飛ばしたあぁぁぁーーーっ!?」


「ひっ!」


突如聞こえたのは教室に響き渡るくらいの大声。



「っ!那咲っ!!
声が大きいっ!!」


慌てて周りを見れば、みんな何事!?って目でこっちを見ている。


「なんのために耳打ちしたと思って……!」


「いやいやいやなんでなんでなんで!?
なんで突き飛ばすの!?」


「ちょっと落ちつこう!?」


「これが落ちついてられるかっての!
ずっと好きでやっっっと両思いになれて、しかも許嫁から婚約者に昇格!なのになぜ突き飛ばした!?」


「だ、だって……」


ど、瞳孔開いてる……。


まばたきもない、ただ目をかっぴらいてる那咲の顔に泣きたくなってくる。


私だって本当は突き飛ばしたくなかった。


受け入れたかった。


でも心とは反対に、体がどうしても反応してしまうから。


思わず、そうするしかなかったの。