「ごめんな」
「え……」
「また、泣かせて」
ぽろりと落ちた涙をつたうように、目尻に、まぶたに口づけてくれる渚。
目はきゅっと細められて、眉が下がって。
つらそうで、どこか苦しそうなその表情。
いつかの、私が渚と初めてキスをして、私が症状が出るからって、渚を突き飛ばしたとき。
渚を拒絶したときに見た、あのときと同じ顔で。
また、だ。
また私のせいでこんな顔をさせてしまった。
渚が大好きなのに、渚にふれてほしいのに。
いつもいつもうまくいかない。
空回りばっかりで、渚にいやな気持ちばかりさせて。
「ごめん……ごめっ、渚……っ」
もう、彼女失格だ、私。
「ちがう」
「謝るなら、俺のほうだよ」
「どう、して……」
「むぎの体質が克服できたのは朝日がきっかけかもしれないって思ったら、なんで俺じゃなくて朝日だったんだろうって、勝手に1人で嫉妬して」
「うん……」
「むぎが克服できたことを心から喜ばないといけないのに、勝手な独占欲で、ぜんぶ俺がよかったって、人として、彼氏としても最低なこと考えて」
「うん」
「そんなときに、むぎが、ふつうに朝日にさわってるの見て、もう嫉妬が爆発して、」
「それで……?」
「それで、むぎを怖がらせるってわかってたのに、あんな無理やり連れ込んでキスして。本当にごめんな」
泣きそうな声。
澄んだ漆黒の瞳が、切なくゆらゆら揺れる。
ぎゅうっと胸が張り裂けそうなほど苦しくなる。
そんなの、渚が謝ることじゃない。
まだ完全に克服できたかもわかってなかったのに、朝日くんにふれて、これ以上にないくらい、心配をかけたのは私のほうなのに。
渚は、ずっとずっと、私の体質のことを気遣ってくれてたのに。
「わるいのは、私のほうだよ……」
落ちる涙もそのままに、掠れた声でそう、つぶやいたとき。
「さっきから聞いてればさ、なんなのふたりとも」



