ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「ここが図書室だね」

「うん……」


それから無事に図書室までやってきた私たちは、なんとかくじを箱に入れることまでできた。


「よし、あとは戻るだけ。
この箱とかはこのままでいいのかな」

「うん……いいと思う」


収まっていたはずの雨が、徐々にまた強まってきてる。

バシバシバシッ!


「っ!!」


窓に打ちつける雨の音が怖くて、時々びくりとする。


「おれさ、」

「う、うん……」


「最近女の子たちにちゃんと言うようにしてるんだ」


「え?」


「名前とか覚えるの苦手だからって、前もって言うようにしてる。その、期待持たせないようにしようって」

「そっか……」


私の言葉が朝日くんに響いたなら、こんなにうれしいことはない。

むしろ、私なんかがって、感じで……。


「むぎさん」


「なに……?」


「むぎさんに、話したいこと、ある」


「話したい、こと……?」


図書室のドアを閉めた朝日くんがゆっくり振り返る。


「っ……」


ドクンドクンドクン。


心臓が、これでもかと早く動いてる。


ふだんの朝日くんの目つきとはちがう。

どこか熱っぽい、甘さを含んだそれは、さっきの、私を見たときと同じもの。


「最初に会ったときから、こうなるかもしれないって、なんとなくわかってた」


「覚えられない女の子の顔と名前も、むぎさんの……むぎのは、すぐに覚えられたし」


「っ……」


今、むぎ、って……。


「ずっと、むぎって呼びたかったけど、久遠がいるし、おれが入る余地なんかないってこともわかってる」


「うん……」


「でも、どうしてもあきらめられなくて」


そう言って、一歩私に近づいた朝日くん。


「おれ、むぎのこと……」


そう、言いかけたときだった。


ドンッ!!


「っ!?」


ピカッとなにかが光ったと思ったら、ゴロゴロと近場でなにかが落ちたような音。


そして。


「っ、なっ、なにっ!?」


瞬間。

ふっと廊下の電気がすべて落ちた。