ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



いよいよだ。


「じゃ、一応オレとはつないでるフリにしとくか」

「ごめんね、土方くん」


「いいんだよ。オレに星見のつらさとか苦しみはわかんないけど、力になることだけはできるから」


今回、直接ふれる部分は手だけ。

腰に手を回すことも、肩を抱かれることもない。


けれど……。

渚と、約束した。


『朝日と鳳は知らないからあれだけど、碧は知ってるから、碧とだけはフリにしてほしい』


この体質が良くなる前。

まだ苦しんでるとき、1人で抱え込んでいたときの私を渚は見ているから。

私がまた同じ思いをしないかって人一倍心配してくれてる。


渚が本当は私に休んでほしいって思ってるのはわかってる。

でもこれは私が自分と向き合って、自分を受け入れるためのチャンスだって、何も言わず私のワガママを聞いてくれてるから。


『これだけは約束してほしい。
無理をしないこと、我慢しないこと』


秘密を知ってる碧とだけは、念のため、つないでるフリをすること。


「次、朝日だけど、本当に大丈夫か」

「うん、大丈夫」


ありがとう、土方くん。

渚は昨日もいっぱいキスしてくれて、特訓してくれた。


もうなんとなく、自分でも気づいてる。


もう完全に克服できてるって。


昨日渚にふれてもらったとき、症状は一切出なかったから。

だからこれは、それが本当なのかを確かめるチャンス。


このターンが終わったら、次、朝日くんだ。


「がんばれ、星見」

「むぎ、無理しないで」

「がんばれ」


土方くんも、那咲も。

そして渚も。


みんなついてる。

大丈夫。きっと大丈夫だから。


「はい、次ここでペア変わります!」


土方くんと別れて、朝日くんの前に立つ。

そして。


「っ……」


お互いの手がふれあいそうになったとき。


「────先生。体調わるいので保健室行ってきていいですか」


いつもと変わらず、無表情で言ったのは。


「大丈夫か?
だれか保健委員、つれていってくれるか」


「たしか星見さん、保健委員だったわよね?
朝日くんのこと、連れていってもらえるかしら?」


「わかり、ました……」


目の前にいた、朝日くんだった。