ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



翌日。


「はい!今日は軽く個人でやったあと、すぐにグループでやってもらいまーす!」


昨日に引き続き、今日もダンス練習。

しかも今日は……。


「……」


むぎ、無言になってる。

そうだよな。

碧と俺以外の、朝日と鳳はむぎの体質のことを知らない。

いくらもうほとんど症状が改善されたとはいえ、不安にきまってる。


「むぎ、つらいなら無理しなくてもいいから」


「うん、ありがとう、渚……」


みんなからは見えないよう、こそっとその小さな手を握って、大丈夫だよ、俺がいるって声をかける。


彼女の不安を取り除きたい。

どうにかしてあげたい。


そう思うのに。


「じゃあ、個人では終わり!
すぐにグループでの練習はじめまーす!」

「―――チッ」


なにもできない自分が歯がゆい。

イライラする。


1人嘆いたって、なにかが変わるわけじゃないのに。


「男子、女子、それぞれ4人に分かれましたねー?
じゃあ音楽かけまーす!」


1曲の間に、ペアが変わるのは3人と。


最初は俺と。

そのあとに、碧。

最後に、朝日。


「休まなくて大丈夫か」

「うん、へいき、」


大丈夫って聞いて、大丈夫じゃないって答える彼女じゃない。

休もうって言って、うんって言う彼女じゃない。


「無理だけはしないように。なにかあったら、すぐに俺のことよんで」

「うん」


人一倍責任感が強くて、がんばり屋さんな彼女。

頼ってほしい。本当は、無理しないで休んでほしい。


本当はそう言いたいけど、彼女が望んでるのはその言葉じゃない。


『明日からグループでの練習始まるけど、大丈夫?』

『うん、大丈夫。
渚も、私と同じで不安に思ってくれてると思うけど、なにもしないで見守っていてほしい』

『むぎ……』


『自分と向き合うチャンスだと思うから。お願い』


握った手をぎゅっと握り返されて、俺の目をまっすぐ見つめて、そう言ってたから。


「がんばれ」


俺のすることは、ただむぎを見守るだけ。