ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



そこまで難しくない今回のフリ。

これならすぐに覚えられそうだけど、俺の頭の中は変わらずそれどころじゃない。


「じゃあ1回曲流してみるんで、その場でやってみましょう!」


アップテンポな曲が流れて、生徒会メンバーも背中を向ける。


「ちょっ、待って。ぜんぜんっ、わかんねっ、」

「あたしも!生徒会すごすぎでしょ!」


「鳳くん、ここってこれであってる?」

「合ってるよ。花岡さん、覚えるの早いね」


「そっ、そんなことないよ!」


うしろでワーワー言いながらやってるのが聞こえる。

碧も、森山も。

みんな楽しそうだな……。


むぎは……。


「むぎさん、そこ、右手あげる」


「えっ、うそ、左って言ってなかった?」


「いや、右で、次に手2回叩く」


え、まじで。

朝日あいつ、あんなによく話すタイプだったっけ?


朝日との接点を持ってからというもの、たまに教室でちらりと見れば、だいたい寝てる。

か、だるそうにスマホさわってる。

そのどっちか。


で、ほんのたまに鳳と話してるくらい。

基本1人でいるし無表情だし、今流行りの無気力男子ってやつかって勝手に思ってたけど。


「朝日くん、ダンス得意なの?」

「あー、うん。
昔やってたことがあって」


「へえ、すごいね」


おい、聞いてねーぞ。

いっつも花柳の女子に囲まれてるとき、そんなしゃべってねーだろ。

むぎとだけだろ、そんなに話してるの。


無表情だし、声のトーンもずっと同じだけど、なんとなく見ててわかる。


むぎと話すのが楽しいって。

そんな顔してること。