ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



『さくらんぼの茎を結べる人はキスがうまいって、聞いたことない?』


音ちゃんと香澄ちゃんからその話を聞いてすぐ。


『帰り、スーパー寄ってく?』

『もちろんです』


那咲とふたり、さくらんぼを買うためだけにスーパーに寄ってきた。

元々買い物はふたりで行こうって渚と決めてたし、


渚みたく、キスがうまくなりたいから!


なんて不純な理由で、しかもさくらんぼだけを買ってきただなんて知られたくないから。


「っ、んん……?」


こうしてこっそり口の中で茎を結ぶ練習をしてるってわけ。


にしても……。

うーん、なかなか結べない……。

あっちにこっちにいろいろ口の中でやってみるけれど、ぜんぜんうまくいかない。

これできる人、ほんとにいるの……?


「なにこそこそ食べてんの?」


「うっ、ひゃあっ!?」


「ぶはっ、なにその声。
かわいすぎんだけど」


「なっ、渚!」


うしろからぎゅうって抱きついてきたと思ったら、横から顔をのぞかれた。

うっ、や、やばい……。


「んー?ごはん前に、なに食べてんの」

「なっ、あんも、食へてないよ!」

「ろれつ回ってないんだけど?」


今私が食べてるのは実じゃなくて、完全に茎の部分。

実ならなんとかごまかせても、茎の部分なんて、どう言えばいいの!?