ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。

***


ピンポーン。


「俺、渚。
ただいま、むぎ」


「おかえり、渚」


それから放課後。

今日は珍しく別々に帰ってきた。


渚が日直の仕事があるとかで、待ってもらうのは申し訳ないからって、那咲とふたりで帰ってきた。


「先にごはん作ってくれてた?」


「うん、お腹すいてるでしょ?
帰ってきたらすぐに食べれるように」


「なにこの会話……もう、新婚じゃん」


「もう!早く手、洗ってきて!」


ハイハイ。

抱きしめられたあと、私の頭をポンポンしながら笑う渚。

頬のゆるみ、隠しきれてないから!

もう……。


バタン。

洗面所へと続くドアが閉まったところで、こっそりアレを口に入れる。


お、おいしすぎる〜!


そう。今私が食べているのはさくらんぼ。

赤い実がとっても甘くて、ジューシーで、渚も私も大好きなフルーツ。


でも今渚に隠れてこそこそ食べているのはなぜだって?

だって、私の口の中にあるのは。


そう、さくらんぼの茎。


今これをがんばって口の中で結ぼうとしているから!