「じゃあ、あとで持っていくわね!」
それから家に入ると渚はもう私の部屋に行ったあとらしく、お母さんは鼻歌混じりでキッチンにいた。
「別にいいよ、来なくても。
今、持っていくし」
部屋でふたりでいて、またあんな顔されるなんて嫌だ。
「だめよ!」
「なんで!?」
こっちは恥ずかしくてしょうがないのに、なにがだめなの!?
「だめなものはだめ!
ちゃんと報告するって約束してるんだから!」
「ほ、報告?」
「そうよ!」
「だれに?」
「汐(しおり)に!」
汐さんというのは、渚のお母さんで、うちのお母さんの高校からの親友。
渚の家は駅前で一際目立つ高級ホテルの経営をしていて、お父さんが社長で、お母さんの汐さんが副社長。
普段は仕事が忙しくて、帰ってくるのはいつも真夜中。
だから小さい頃は、渚はよくウチに泊まってたっけ。
でもどうしてここで汐さんの話?
「ふたりの様子を逐一(ちくいち)教えるようにって頼まれてるの!」
「ふたりって……渚と、私?」
渚はまあ、息子だからわかるけど、どうして私まで?
「そうよ。
ほんっっっと、いつになったら付き合うの!?」
「はあ!?
というか急になんの話!?」
「さっきリビングに来なさいって言ったでしょ!
で、どうなの、渚くんとは」
「ひっ!」
ずいっと近づけられた顔は鬼の形相で、喉の奥がひゅっとなる。



