ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。

***


「あら、おかえり〜!
渚くんも、おかえりなさい!」


「ただいま」

「ただいまです」


「ぐふっ、ぐふふ」


なにニヤニヤしてるの、お母さん……。


それから家に着くと、お母さんが買い物から帰ってきたところだった。


「渚くん、今日もうち遊びにくるでしょ?
おいしいタルト、買ってきたの!」


「いいんですか?」


「もちろんよ〜!
渚くんのことは息子と思ってるし、なんならウチに住んでもいいくらいよ!」


「なに言ってるのお母さん!?
ねっ、渚からもなんとか言って……え?」


ほらほら入って入って♪

なんて渚の背を押すお母さんを止めようとして。


「……」


ちょっとちょっと渚!?


満面の笑みのお母さんの前で、口に手を当てて顔を背けてる。


一瞬見えた口元は緩んでた気がした。


えっ、もしかして……。


喜んでる!?


普段、私の前でもめったに表情変わらないじゃん!

というか、笑ってるところだって結構貴重なのに。


なぜそこで喜ぶ!?


「ありがとうございます。
あー……むぎ」


「えっ、な、なに?」


「お言葉に甘えさせてもらうけど……このまま部屋、上がって平気?」