ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「むぎ。呼んで」


あごを掬われる寸前に、なんとか口を開く。

声、震えませんように。


「なぎ、さ……」


「もう一回」


「渚……」


「ん。むぎの「渚」がないだけで、めちゃくちゃ距離感じるから。いつも呼んで」


「っ、渚……」


「あー……やば」


閉じていた渚の目がゆっくり開いて、ふわっと羽が落ちたみたいに。


「むぎに呼ばれんの、ほんっと好き」



幸せだと、ほほえんだ瞬間。


ぶわっ!


今度こそ顔中に熱が集まって、くらくらめまいまでしてくる。


っ、こ、これはほんとに……っ。


「わ、私帰る……!」


あの症状出るから……!


「だめ。一緒に帰る」


無理ってそれ、私のセリフーーーっ!!

さっきから、渚の言葉ぜんぶが都合のいい風に聞こえちゃうし、


なにより声も雰囲気も、ぜんぶが甘くて窒息しそうで。


「学校行くのも帰るのも、絶対俺と。
俺とだけにして」


ほら、その目も。


私だけしか見てない。

私しかいらない。


なんて思ってるわけない。

でもそう強く叫んでるように見えるのは、きっと熱くて甘くて、でもどこか鋭い瞳が離してくれないから。


「うん……」


ドキドキして、舞い上がって。

また、好きが重なる。